今しかない、この瞬間を
キッズスクールの終了時間が近付くと、どうしてもソワソワしてしまう。

フロントで一番下っ端はあいつだから、出勤している日は、大抵、時間になるとお迎えにやって来る。


陽成はもうスクールを退会してしまったから、当然、朱美さんはいない。

今日は、他の母親もいないから、少し話せるかな。

あいつは早番だったはずだから、今日はもうこの時間しか顔も見られないし。


それを楽しみに、防球ネットをくぐってコートの外に出ると、あいつは淵江コーチと楽しそうに話していた。

落ち着け。

淵江コーチは本命じゃないんだから、気にするな。

だけど、俺がコートから出て来たのに、すぐ反応してくれないことに、ちょっとだけ傷つく。


「あっ、お疲れ様。」

「お疲れ。」

「ね、最近、陽成くん、見ないね。」

「あぁ、うん。辞めたから。何か、実家の方に引っ越したんだって。」

「へっ!?」


なっ、何なんだ、その反応は!?

むっちゃ驚いてるように見えるんだけど。

その驚きようを見た限りでは、やっぱり朱美さんと裏で繋がってるとかじゃないんだよな.......?


「今日も淵江コーチと、どっか行くの?」

「ううん。淵江コーチとは行かないよ。」

「じゃあ、他の人?」

「えっ? あぁ、うん.......。」


.......マジか?

半分冗談、半分意地悪で言ったつもりだったのに、そんな答えが帰って来ちゃうんだ。


それって、絶対、田澤さんだよな。

二人は意外と上手く行っちゃってるんだ。


悔しいし、切ないし、ちょっと腹が立つ。

モヤモヤした気持ちが膨らんで、抑え切れなくなって、トゲのある言葉になって表れる。
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