敏腕社長に拾われました。

「あの、久住さん」

「虎之助」

ああ、やっぱりね。たぶんそう来ると思ってたけど、いきなり他人を呼び捨てもどうかと思うよ。

でも目の前の彼の顔を見る限り、虎之助って呼ばないと相手にしてもらえなそうだ。

「じゃあ、虎之助さん」

「“さん”はいらない」

「虎之助!」

「はい、なんでしょう?」

あぁ~いちいち面倒くさい! “さん”が付いていようがなかろうが、どっちでもいいじゃない! こっちは焦ってるっていうのに、虎之助は満足そうに笑ってこっちを見てるし。それでもここは、低姿勢で。

「あの初対面で申し訳ないんですけど」

「……初対面。まあいいや。で?」

何、今の間は。今朝会ったばかりだから、初対面でしょ? おかしな人。でも今は、そんな言葉を浴びせられない。

「お金。貸していただけないでしょうか?」

「は? お金? 俺がキミに?」

「はい」

そりゃ初対面の見知らぬ女に、『お金貸して』なんて言われたら、そういう反応するよね。うん、分かる、分かるよ。でも今は、藁を掴む思いなんだよ。それに、これも何かの縁じゃない? 見知らぬ女でも、路頭に迷って餓死でもしたら後味悪いよね?



< 19 / 248 >

この作品をシェア

pagetop