敏腕社長に拾われました。

「ちゃんとお利口に待ってたみたいだね。よ~しよし」

虎之助がそう言って私の頭を撫でると、宮口さんの鋭い視線が飛んできた。

何もそんな目で見なくても……。

これって不可抗力というか、虎之助が楽しんでしていることで。私の気持ちを全く無視した、虎之助流のスキンシップ。

「社長。頭の上の手、どけていただけませんか?」

だからといって、ずっとこのまま撫でさせるわけにはいかない。

「智乃は意地悪だなぁ」

「早瀬です!」

名前では呼ばないでって、さっきちゃんと言ったのに。

「そうなの? でも宮口さんのことは朱音さん、長坂のことも胡桃ちゃんって呼んでるからさ。智乃は智乃でいいんじゃない? ねえ、朱音さん?」

ってそれを彼女に聞くの? 

驚いて宮口さんを見れば、さっきまで私に向けられていた鋭い視線は消えていて。そこには清楚な女性が座っていた。

「はい、社長。早瀬さんとは仲がよろしいみたいですし、名前で呼ぶのが一番だと思います」

「ほら、朱音さんもああ言ってることだし」

いやいやいや、私にはわかる。彼女の言葉ひとつひとつに、刺があることを。

そして、そのことをわかってる人がもうひとり。

長坂胡桃が私たち三人の姿を見て、肩を震わせながら笑っている。

私がギロッと睨んで見せても、舌をぺろっと出してとぼけ顔。でもなんだか、長坂胡桃とはうまくやっていけそうな気がしてくるから不思議。



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