冷徹なカレは溺甘オオカミ
異常なわたしの反応に印南くんが目をみはったのを、確認できたかできていないか。

そんな微妙なタイミング、多少乱暴なくらいの動作で、自分を抱える彼の腕からあわてて抜け出した。



「ご、ごめ、……ありがとう……っ」



ああ、なんか、矢野さんまでもがぽかんとした表情でこちらを見つめている気がする。

思いっきり顔を背け、それでも一応お礼は言って、わたしは振り返ることなくオフィスへと駆け込んだ。


……まずい。今の反応は、まずい。

いくらわたしの恋愛偏差値が低いことを印南くんに知られてるからって、それでも、さっきのわたしの態度は過剰だった気がする。

勝手に、身体が反応してしまったとはいえ……これじゃあわたしが印南くんのことを、ただの同僚以上に意識してしまっているみたいじゃないか。


矢野さんにも、変に思われただろうか。『一応付き合ってるくせにあんな反応するなんて』って、勘ぐられてしまうかな。

ああ、もう。……ほっぺた、熱い。
おそらく真っ赤になっているであろう自分の顔を同僚たちに見られたくなくて、うつむきながら更衣室を目指した。




「え、なに、びっくりしたー……柴咲さんって、あんなかわいいカオすんの? え、やばくね? 印南おま、いつもあんなん見てんのかよ」

「……矢野さん。わかってるとは思いますが、さっき見たことは、くれぐれも、他言無用でお願いします」

「……りょーかい、彼氏クン」
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