自白……供述調書
 弁護人選任通知が私の手元に届いた日、午前中から霞ヶ関の検察庁で検事調べを受けていた。

 私が強盗殺人の罪に関して、否認した最初の日であった。

「私は犯人ではありません」

 取調べ検事は表情一つ変えず、私のその一言を助手の書記に書き込ませていた。

 夕方、警察署に戻った私に向けられた刑事達の視線は、それ迄にない厳しいものに変わっていた。

 留置担当が弁護人選任通知書を持って来て署名をさせられた。自費で弁護士を頼める訳がないから、当然、国選となる。

 今迄の裁判を思い返した。

 無気力な表情で型通りの問責。弁護士面会も一度位しか来ない。中には裁判当日迄一度も面会に来なかった弁護士もいた。

 一人用の狭い留置室の隅でそんな事をぼうっと考えていたら、扉の鍵が開けられる音がした。

 見ると、留置担当の係長をはじめ、数人の担当がずらりと立ち並んでいる。いずれも固い表情だ。

「おい、調べだ」

「……」

 時間は多分、夕方の四時を過ぎた位か。

 嫌な予感がした。

 留置場と刑事部屋を仕切る扉の前で立ち止まる。

 扉の小窓から手錠が出された。

 両手に手錠を掛けられ、腰に縄を打たれる。

 もう何十回、何百回となくそうされて来てどうという事など無い筈なのに、この時は言いようの無い恐怖に襲われた。

 扉が開く。

 捜査一課の主だった刑事達が並んで私を出迎えた。

 無言のままだ。全員が険しい表情をしている。

 通された取調室は、何時もの部屋より少しばかり広い造りになっていた。

 机一つ挟んで椅子に座らせられる。

 ここで手錠を外される筈なのに、どういう訳かそのままだ。

 刑事課長が入って来た。

 捜査主任に何か耳打ちをし、直ぐに部屋を出て行った。

 私の取調べを担当している刑事が目の前にドカッと腰を下ろした。

 何処かいらついている。

 右手の人指し指を机にトントンとせわしなく打ち付けている。

「てめえ、どういう了見だ!」

 地獄の始まりの第一声であった。

 それは取調べの時に味わったもの以上になった……。




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