自白……供述調書
「野上さん、どうして痴漢か強猥だって思うんです?」

 一番若い島田という傷害事件の男がヤクザ者に聞いた。

「痴漢とか強猥絡みの奴らはな、大概初めのうちはああやって否認するもんなんだ。俺は冤罪だっ!てな。
 ま、実際の所、本当に無実の奴なんてえのはそうは居ねえけどな。日本の警察はその辺は優秀だからよ」

「でも、たまに冤罪事件とかもありますよね」

「そんなのアメリカとか外国に比べたらごく僅かなもんさ。世間が思ってる程、冤罪なんてもんはねえよ」

 やり取りを聞きながら、頷く自分が居た。

 しかし、その一方で、稀にある冤罪事件の事も微かに頭を過ぎった。

 全員の食事が終わって片付け始めた頃に、漸くその男は入って来た。

 無言でうなだれたまま、部屋の壁にもたれようとするのをヤクザ者が咎めた。

「おいっ、無実だか何だか知らねえが、一応挨拶てえもんをするのが筋だろ。それに、あんたの座る場所はそこじゃねえぜ。新入りはそっちだ」

 ヤクザ者が指差したのは、便所の横だった。

 その男は虚な目のまま、言われた通り便所の横に席を移した。

「おい、弁当喰わないのか」

 留置担当が声を掛けるが、彼は無言のままだった。

「辛気臭え野郎だな」

 傷害の若者がそう言って睨み付ける。

 男の横顔を見ると、思いの外若い男であった。肩迄伸びている髪は乱れているが、多分普段はきちんとしているのだろう。上品な面立ちは、育ちの良さも感じさせる。着ている物も、かなり上等な物のようだ。

 歳は二十代後半か?

 三十にはなっていないと思う。

 壁にもたれ、膝を抱えていた彼に、留置担当が声を掛けた。

「さっき弁護士を呼んでくれと言っていたが、誰か知っている弁護士さんはいるのか?」

 男は力無く首を振った。

「当番弁護士を呼べるよ。最初の面会に関しては無料だから、お金の心配はいらない。こういう所に入って、最初にいろいろ動いて貰うんなら、先ず当番弁護士に連絡してみたらどうだい」

 気が付いたら私は彼にそんな事を言っていた。

 いらぬお節介癖が出てしまった。

 まさかこれが彼との奇妙な縁になるとも知らずに……


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