ハッピーアワーは恋する時間
よく見ると、博文さんサイドの親族は、ご両親も含めて、誰一人いない。
参列していた友人も、ここには一人もいなかった。
彼ひとり、孤立した状態だけど、事情がまぁ・・・あぁだから、仕方がないよね。

「未散ちゃんのためだけじゃない。君と、君の愛人と、生まれて来る子どものためにも、これが最善の処置なんだ」と諭すように言う靖叔父さんを、涙目で見ている博文さんは、まるでボロボロに傷ついた子犬のようだ。

こんなに惨めなこの人の姿や顔を見たのは、初めてだ。
でも可哀想なんて思わないし、同情も湧かない。

ほんの数時間前までは、この人が、世界で一番カッコいい男だと思っていた。
この人を愛していた。心から。

でも今は、この人を見ても、胸がときめくどころか・・・何とも思わない。


やっと離婚届に署名をした博文さんの手から、靖叔父さんは、それをすぐさま引っ掴んだ。

「さあ行こう」
「うん」
「みちるっ!みちるーっ!」

・・・この人の妻になって、一生、死ぬまで一緒にいると誓ったばかりだけど、今は顔も見たくないし、声も聞きたくない。
いや、もう二度と会いたくないし、関わりたくもない。

「慰謝料の請求は、また後日改めて」と言った私は、すでにもう、博文さんに対する愛情を、完全に失くしていた。

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