この恋心に嘘をつく

宮ヶ瀬 恭介――常務取締役であるのと同時に、環の弟でもある。

ふたりの兄同様、恭介も容姿が整っているが、こうやって至近距離で見たのははじめてだ。


「えっと…」


立ち上がって挨拶をするべきなのに、つい対応が遅れてしまう。


「それ、ブランドものだよね?」


恭介が指差したのは、環に買ってもらった腕時計だ。
買ってもらって以来、愛用している。


「そうですね。…もしかして、派手ですか?」


研修期間に、観月に言われていたことを思い出した。


『身だしなみとお洒落は違うものです。社外の方と会う機会の多い秘書は、身だしなみにも気を配って当然です』


元々、着飾ることを得意としないため、その点は大丈夫だろうと思っていたのだが――。


「いや、似合ってるよ。ただ、結構いい値段のブランドだったなぁ、と思って」


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