ワケあり彼女に愛のキスを



ストーカー事件があってから一週間。舞衣と優悟の関係に特に変化はなかった。

優悟から告白もどきみたいな発言は受けたものの、だからといって優悟が何かを望んでくるわけでもなければ、返事を急かされるような事もない。
あまりにいつも通りに接してくるから、本当に好きなんだろうかという疑問が浮かぶ時さえある。……かと思いきや、ふとした瞬間に見せる表情や眼差しから、想いが伝わってくる事もあって。

そのたびに、ザワッと胸の奥が揺らされるものだから気持ちが悪かった。

なんでこんな気持ちになるのかが舞衣には分からないでいた。告白された事は今までにもあるけれど、こんな風になった事はない。
申し訳ないとは思いながらも気持ちは決まっているため、ただ断るだけで、それ以上何かを感じる事はなかったのに。
秀一に対してだって感じた事のないザワつきの対処法に、困り果てていた。


「……なんか視線を感じる」

ストーカー事件の皮きりになった発言を、ここにきてまたする舞衣に優悟が「またか?」と片眉を上げると。
夕飯で使った食器の洗い物をしていた舞衣が、「そうじゃなくて、今」と優悟を見て顔をしかめた。

そして、ダイニングテーブルで食後のコーヒーを飲む優悟に口を尖らせる。

「優悟が、なんかこっち見てるから」

洗い物を始めたのがついさっき。水を出してスポンジに液体洗剤を乗せシュワシュワと泡をつくり食器を洗い始めてすぐに、対面式キッチンの向こう側から送られてくる視線に気付いた。

だから何か用でもあるのかと思い聞いたのだが、返ってきたのは「別に」だけで。
じゃあ、とまた洗い物を再開したものの……相変わらず送られ続ける視線に耐えきれなくなった舞衣が『……なんか視線を感じる』ともらしたのだった。


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