ワケあり彼女に愛のキスを



優悟の気持ちが自分に向いているというのが、どこまで本気だかは分からない。
だって相手は優悟だ。女なんて選びたい放題だろうし、第一、恋愛話をすれば、〝本気の女は面倒くさい〟が二言目には飛び出す様な男だ。
そして自分は、本気の恋愛しか知らない女。

優悟からすればとてつもなく面倒くさいと分類される自分を好きだなんて事が、本当にあり得るのだろうかと、この一週間ずっと考えていた。

からかわれただけならいい。でも……かと言って、たまに送られてくる優しい眼差しや不意に見せる微笑みを知っているだけに、からかってるだけだとも言い切れなくて。

今だって、じっと見つめてくる視線に、もしかしたら意味があるんじゃないかと思ったら耐え切れなくなった。

ザワザワとし始めた胸に我慢できなくなって、じっと困り顔で見つめ返してくる舞衣に、優悟がしばらくの間黙って視線を返してからようやく口を開く。

「あー。頭に泡が乗ってるから」
「え……え、泡?!」

予想していた理由とは違う答えに舞衣が驚くと、優悟がじっと見ながら頷く。

「さっき大胆に皿洗ってたからついたんだろ」
「えー……これで取れた?」

水を止めた舞衣が、手で頭をぱっぱと軽く拭いて聞くと、優悟はそんな様子を見てふはっと笑う。

「取れない。より乗った」
「えー」
「えーじゃねぇよ。泡がついた手で頭触ったらまたつくに決まってんだろ」

「バカじゃねーの」と明らかな悪口を言われたのにも関わらず、怒る気にならなかったのは、その表情がただバカにしているだけには見えなかったからだろうか。
仕方ないヤツ、とでも言いたそうに細められた眼差しに……上手く言葉が出てこない。

どんな顔をすればいいのかも分からなくなって、わざと不貞腐れたように「優悟が取ってよ」と言うと、優悟は「やだ。風呂まで乗っけとけ」とまた笑っていた。


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