ワケあり彼女に愛のキスを


「そういえば」と、優悟が秀一の名前を出したのは、翌朝の事だった。

昨日の夜は結局優悟がソファーに陣取ってしまったために、退かそうとして半ば取っ組み合いになりながらギャアギャアと騒いだ後、舞衣は諦め寝室のベッドに横になり。
優悟の匂いに、胸が居心地の悪さからか変に動揺する音を聞きながら眠りについた。

そして朝起きてみると朝食を作る優悟の姿があり、ダイニングテーブルの上には既にトーストされた食パンとサラダが置いてあった。

住まわせてもらっている間は、家賃代わりに家事はすべて舞衣がするというのが舞衣から言い出した約束だ。
だからいつもだったら舞衣がしている朝食づくりを代わりにしている優悟を見て、昨日の事なら本当に気にしなくていいと舞衣が隣に並び言ったのだが。

優悟は「別に気が向いただけだから」と、もう出来上がるし早く座れと舞衣を軽く突っぱねるだけだった。

気を使われるのはなんだか落ち着かなく、どこかにわだかまりが残っているなら解消したい。そう思い、座りながら優悟の表情を覗き見ていた舞衣が、あれと思う。

優悟の顔はしかめられているわけでもなく、心なしかいつもよりも柔らかい表情を浮かべているように見えた。
じっと見すぎたからか、視線に気付いた優悟が「なんだよ」と片眉を上げて聞く表情も、決してぎこちないだとかそういう事もなく……。
昨日、恥ずかしい思いをしてまでして伝えた事がきちんと優悟に届いたようで、舞衣がホッとした笑顔を浮かべたのだった。

そして、優悟が作ったベーコンエッグがテーブルに置かれ、ふたりで手を合わせ食べ始め、数分が経った時。
優悟が「そういえば、菊池の事だけど」と、話を切り出した。

優悟の口から出た秀一の名前に、胸がぎくりと音を立てた気がして、舞衣が不思議に思い自分の胸を見下ろしていると、優悟が言う。


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