ワケあり彼女に愛のキスを


「昨日は思わず止めたけど、もう止めないから。おまえと菊池の問題なのに悪かった」

パンを食べながら言う優悟に、舞衣が瞬間的に言葉を失う。

優悟の口から秀一の名前が出た事に受けた、小さなショックのような罪悪感のような感情が何なのか分からず……でも、黙っているわけにもいかないため、舞衣が目を伏せ笑みを浮かべる。

「なんか優悟に謝られてばっかりだね」
「本当、なんでおまえなんかに何度も謝んなきゃなんねーのかって思うけど」

舞衣がムッとして顔を上げると、そこには意地悪に笑う優悟がいて。
いつも通りの表情に、安心なのか嬉しさなのか分からない感情で胸がいっぱいになる。

今感じていた小さな苛立ちを忘れるほどに。

「口出さないとか言いながら、俺も我慢強い方じゃねーし、口も手も出るだろうけど。それも先に謝っとく」

そう、ニッと口の端を上げて言う優悟に、舞衣はどんな顔をしたらいいのか分からないまま、曖昧な苦笑いで「……手は出さないでよ」と小さな声で言うのがやっとだった。

今までずっと秀一の傍でないと安心できなかった。
秀一と繋がっているという実感が持てないと息がうまくできなかった。

だから、呼吸が上手くできなくなっている気がして、昨日、秀一のところに行こうと思ったのに……。

なのに……昨日、秀一と彼女のあんな場面を見たにも関わらず、不安のあまり息苦しくなり弱気になっていたにも関わらず、今は落ち着きを取り戻していて……。

秀一の傍じゃないのに、大きく呼吸ができていて……そんな自分に気づき、舞衣が不思議そうに顔をしかめる。

優悟のおかげで、ずっとおかしなまま固定されていた舞衣の気持ちが変わり始めている事に舞衣が気づくのは、もう少し先の事だった。


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