ワケあり彼女に愛のキスを


優悟の配属されているのは、融資推進部。

営業が顧客から受けた融資相談内容を確認したり、申込みの受け付け、それに対しての審査業務、営業が担当している顧客への融資アプローチを一緒に検討したりと、比べるモノではないが、他の部署と比べると仕事内容が細かい上に難しい。

優悟は新入職員として入社してからずっと融資部の窓口業務を担当していたため、融資という仕事には慣れているが、それでも仕事量はなかなかで定時で帰れる日など月に数日もない。
特に仕事に対して熱いものを持っているわけでもないが、やりがいを感じないわけでもないため、仕事が面倒くさいだとかそういった考えはなかった。

ひとつひとつの案件を片づけていくのはスッキリするし、それが数字となって結果に表れるのも分かりやすくて気に入っていた。

一日の仕事の流れは、まずはコーヒーを飲みながら営業担当とその日訪問予定の顧客の確認、日中は審査業務や事務処理を集中して行い、営業が帰ってきたらもう一度軽いミーティングをする、というのが大体だった。

休憩時間は各々手が空いた時に自由にとっていい事にはなっているが、優悟の場合は昼休みは十三時から十四時、その他の休憩は気が向いた時間に十五分程度を一日を通して数回取る事が多い。

休憩できる場所といえば、給湯室か喫煙室、それかエレベーターホール横にある、カフェスペース。煙草を吸わない優悟は、たいていカフェスペースで休憩を取る事が多い。
カフェスペースと言っても、そこにはいくつかのテーブルと椅子、そして自販機が数台あるだけなのだが、女性職員の出入りが多い給湯室よりは気が休まるというのが理由だった。

今日もいつも通り、午後の仕事を半分ほど終えたところでカフェスペースに行き、自販機で缶コーヒーを一本買ったのだが。
窓際のテーブルから椅子を引き、そこに座ったところで、「あれ、北川さん。お疲れ様です」と声をかけられた。

見ると、自販機に小銭を入れているのは秀一で……その姿にぴくりと眉を寄せてから缶コーヒーを開けた。
カシュ……と小さく音を立てて開いたプルタブを下り曲げる。

< 125 / 152 >

この作品をシェア

pagetop