ワケあり彼女に愛のキスを



白雪姫の本来のストーリーを優悟から聞き、気分が悪くなった翌週の水曜日。
食堂で木村と並んでお昼をとっていた時に、他のテーブルからの声が聞こえてきた。

「菊池さん、美川さんと別れたらしいよー」

突然耳に飛び込んできた秀一の名前に、舞衣がピクッと眉を寄せる。
声が聞こえてきた方を見ると、どこの課だかは分からないが、三人の女性職員が楽しそうに話しているところだった。

「それ私も聞いたー。なんかもともと付き合ってなかったんでしょ? でも、美川さんの方は付き合ってるって勘違いしてたらしいよね。でも菊池さんに同棲中の彼女がいるって聞いて、怒りのあまりその彼女に電話して、菊池さんが浮気してる事バラしたんでしょ?」
「怖いよねー。でも気持ち分かるけど。菊池さんって結構遊んでるって話だし、同じような思いした人とかいそう。
美川さん、彼女の電話番号とかどうやって調べたんだろうね。……あ、もしかしてホテルとかで菊池さんがシャワーしてる間とかにスマホから抜いたとか?」
「らしいよ。っていうか……なんかその時点で菊池さんアウトな感じするけどね。結局彼女とはどうなったのかは知らないけど……でも普通許さないよね」

呆れたような笑顔で話す女性職員を舞衣が眺めていると、隣に座った木村が気遣うように声を掛ける。

「城ノ内さん、気にしない方がいいわよ。男なんて他にもたくさんいるんだから。それにね、趣味の悪い男が多すぎるのよ。例え振られたって全然気にする必要なんかないんだから」

慈悲に溢れた表情で始まったハズが、最後の方はギリッと歯を鳴らした木村に、舞衣が不思議そうに眉を寄せていると。
木村はA定食のブリの照り焼きをひとくち口に運んでから、はぁと重たく息をつく。

「城ノ内さん、同じ立場だから言うけどね……実は北川さんに振られちゃって」
「え……」

思わず眉を潜めたのは、優悟からそんな話は一言も聞いていないという驚きからだったのだが。
それを〝木村さんほどの人が振られるなんて!〟という風に自分に都合よく誤解した木村が、バッと舞衣の方を向いて眉を下げる。


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