ワケあり彼女に愛のキスを


「そう思うでしょう?! 私だってイケる!って思ってたもの。謙遜する必要もないから言うけど、私、大学だっていいところ出てるし、仕事だって顔とスタイルが命って言われる受付なのよ? 今まで告白される事はあってもする事がなかった私が初めてしたって言うのに……」

そこまで言って勢いをなくした木村がガックリと肩を落とし、A定食と向き合うよう体勢を変える。
ご飯をぽそりぽそりと食べ始めた木村に、詮索するようだしこれ以上聞いていいものか悩みながらも舞衣が「北川さんは、なんて……?」と先を促すと、木村はまたひとつ重たい息を落としてから答える。

「〝悪いけど〟って言われて……でも納得いかないから食い下がったら〝バカな女が好きだから〟って。私、いい大学出てるって言ったじゃない。だからもうそう出られちゃうとダメよね……」
「バカな女……」
「今好きな子がそういうタイプらしいわ。〝バカだけど、大事にしたくて堪らなくなる〟んですって。本当に愛しそうな顔して言うもんだから、それ以上は何も言えなくなっちゃったけど……北川さん、もう遊ぶのやめたのかもね」

舞衣が黙っていると、木村は持っている箸を眺めるように目を伏せて呆れたように笑った。

「まさかだったわ。北川さん自身は仕事があれだけできるんだから頭いいのに、バカな女が好きって……。本当に趣味悪い。でもおかげで諦めがついたけど」

はぁ、と今度は気を取り直すようにため息をついた木村がピシッと背筋を伸ばして舞衣を見る。

「だから城ノ内さんも落ち込む必要なんかないわよ。問題は、振られた側じゃなくて、趣味の悪い男の方にあるんだから。さっさと次移りましょう」

もう本当に切り替えたのか、無理をしているのか。
綺麗な姿勢で食事をする木村に「はい」と曖昧に笑った後、舞衣もご飯を口に運んだ。

優悟の言った〝バカな女〟を、少し気にしながら。

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