ワケあり彼女に愛のキスを


そんな、見た目も営業成績も中の中クラスの秀一を優悟が知っていたのには理由がある。
それは、社内中に知れ渡っているある噂。

美形揃いの受付嬢の中でも目を引く容姿を持つ、城ノ内舞衣。
その舞衣が中学の時からずっと一筋に想い続けているというのが、秀一だという。
しかも秀一はそんな舞衣を二番目の女としてぞんざいに扱っているというのだから、社内の男は納得いかなそうに首を捻るばかりだった。

あれだけの可愛らしさを持つ舞衣がなぜ秀一に。
しかも、目に見えてひどい態度を取られているというのに、舞衣の目はいつも秀一しか映していないのだから納得などいくわけがない。

そんな状態に、囚われの姫を救い出してやりたいという、ヒーロー願望がむくむくと湧き上がり、初めこそ我先にと舞衣に救済の手と称したアプローチをかける男もいたのだが。
〝秀ちゃんじゃなきゃ嫌〟という強固なほどの舞衣の気持ちを動かせた者は誰ひとりいなかった。

そのため、今は舞衣に近づこうとする男はなかなかいないというのも、社内中に知れ渡っている噂話のひとつだ。

優悟が、秀一から視線を横に移すと、そこには小柄な女が見受けられる。
首元に巻いたスカーフから受付だという事が分かり、そして秀一とこんな人気のない場所で話している事からそれが舞衣だと悟った。

この春、本社に移動してきた優悟にとって、これが舞衣の初見。
受付は言うまでもなく外部の人間を迎える場所に設置されているものであり、優悟たち職員は職員用通路を使うため、舞衣と接する機会などなかったのだ。

けれど噂だけは聞いていた事もあり、どんな女なのか拝ませてもらおうじゃねーかと身体をずらすと、ようやく舞衣の顔が見えた。


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