ワケあり彼女に愛のキスを



金やらプレゼントを渡せばコロっといく女だったらどんなに楽だったろうと、優悟がつくづく思う。
何が悲しくてあんな厄介な女に心が動いてしまったのかは、自分自身でもまったくもって分からなかった。

けれど、実際気持ちが動いてしまったのだから、今更なんでと考えたところで仕方がない。

仕方がない事……ではあるものの。
やはり、秀一以外眼中にない、という部分だけはできればなければよかったと思わざるを得なかった。

意識しろと告げられた側である舞衣はというと、その発言を受けてから二週間、とくに変わった様子は見せない。
初日は怪訝そうな目で見てきたりと挙動不審な部分は見られたがそれからは至って普通。

舞衣の中であの発言がどう消化されたのかは分からないが、優悟としても、ギクシャクしたかったわけでもなければ、舞衣が簡単に自分に堕ちるとも思っていないため、そこをつついたりはしなかった。
それでも、お互いにあの発言以前とは少しだけ違った心持ちで二週間が過ぎた頃。

社内食堂で、それは起こった。

同じ会社に勤めていれば、社内で偶然顔を合わせる事は当然ある。
それでも、普段なら何食わぬ顔して挨拶を交わしやり過ごしていたわけだがこの日は違った。

舞衣と、先輩である木村が社食で昼食をとっていたところ、優悟と先輩である内間が食堂に入ってきて。
それなりに賑わっている食堂で舞衣たちを見つけた内間が「相席いいですか」とへらへら笑いながら声をかけてしまい……。

社内で人気の高い優悟と、そこそこ人気のある内間に声をかけられた木村はもちろんふたつ返事。
初対面状態を装いながらの昼食がスタートした。


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