夏祭り

3

そのあと、唯斗が私の手を離さずに連れてきてくれたのは、神社の境内の人が少ないところだった。
「唯斗、こんなところ来てどうするの?」
そう尋ねると、唯斗はクスリと笑って
「もう少しだから」
と言った。

数分後、紺色の夜空に大きな大輪が咲いた。
「…綺麗…」
「だろ?ここ、人少ないし、見るのに1番いい場所なんだ。」
「そうなんだ…」
ふと、自分の手にある温もりを思い出す。まだ、唯斗の手は離れていなかった…
「…唯斗、手…」
離さないと、そう言おうとした途端、唇が塞がれる。目に映るのは、唯斗の長いまつげと、夜空の大輪。
すっ…と、唇が解放された。
「…ごめん、瑛美…でもさ、俺、ずっと瑛美が好きだったんだ。遠いから、なかなか会うこともないし、忙しくて連絡だってまともにとれないかもしれない。それでも、俺は瑛美が好きだ。だから、付き合って欲しい。」
離れた唯斗の唇から放たれた言葉は、まるで夢の中にいると勘違いしそうになるようなものだった…。
私の胸は、早鐘を打つ。この想いを、どうやって伝えたらいいんだろう…。導きだされた答えはただ一つ。
「…こちらこそ、よろしくお願いします…」

その言葉を口にした途端、また、私の唇は塞がれたのだった…
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