ペットな彼女
ペットの終了

智明さんが東京にいるのもあと残り一週間となってしまった。

智明さんの部屋は引越しのために山積みのダンボールで溢れている。

そして、私がこの部屋に来れるのも今日が最後だ。
2人で食べる最後の晩御飯になる。

智明さんの帰りを待ちながら、今まで智明さんが褒めてくれた料理を作る。

こんなに食べきれないのは分かってるけど、冷蔵庫に入れておけば引越しまでの間で食べてもらえるかなって思って…

智明さんは家ではほとんど料理をしない。
なんでも、お客さんには美味しい料理を提供したい一心で仕事に没頭できるけど自分に対しては作る気が全くおきないから、らしい。
智明さんの家で食べさせてもらった手料理は基本的に新作の研究のための試作や技を磨くために練習したものであったりと、手料理と言う名の実験台として私が使われたようなものだったと思う。

それでも、智明さんが私を頼って感想を求めてくれることがすごく嬉しくて、毎回料理長の父親を持ったことで舌だけは自信があることに感謝したものだ。


今日は楽しく食事して、智明さんとの時間を大切に思い出にしよう。
笑顔で智明さんに今までありがとうと伝えたい。
辛い気持ちを押し込めて知らないふりをする。

鼻歌なんか歌いながら料理を進めていく。
私が作れるものは普通の家庭料理。
舌は良くても、それを再現する技術は持ち合わせていないなんて我ながら残念な女だと思う。



*****

ガチャリと鍵か空く音がして、智明さんの帰りを知らせる。
私は火を消して急いで玄関へ向かい智明さんを出迎えた。

「おかえりなさい!ご飯できてるけど、先にお風呂入る?」

「……ん、先に飯食いたい。」

智明さんの後ろをついてリビングに戻る。

「あとパスタ茹でたら完成だから、先に食べてて」

「おい、まだ作る気か。もう十分食べきれない量あるだろ。」

「いいから、智明さん座って座って!」

智明さんの背中を押して無理矢理座らせようとするフリをしてギュッと抱きついたが
「押すな、着替えてくる。」
とあっさり却下された。

少しくらいいいじゃんかーと不貞腐りながら台所に戻ってお湯を沸かす。
鼻歌を再開しながらお湯が沸く間に後片付けをしていると不意に後ろからゆっくりと抱きしめられた。
突然の出来事に全く予想してなかったため驚きの声をあげてしまった。

「……ふふっ。驚きすぎ。さっき美晴がしてきたのと同じことしただけだろ。」


智明さんはイタズラが成功したのが嬉しい様子。
そのまま腕に力を込めてギューっと抱きしめられる。

私の頬に智明さんの頬がくっついた。


「あ、あの……智明さん?先に食ベテテクダサイ……」

自分からくっつくのは平気だが、相手からくっつかれたら顔に一気に熱が集中して自分でも信じられないくらいテンパってしまう。

「…………美晴、手止めてこっち向いて?」

向いてもなにも、頬がくっついてるからそっち向いたら私からほっぺにキスしちゃうことになるけど、していいということなのでしょうかね……?

すでに、ゆでダコ状態の私の思考回路はぶっ飛んでしまっていた。

わーい!と頭の中お花畑で智明さんの頬にキスをする。
唇を離して満足した束の間、グッと顎を掴まれた。

「何勝手にキスしてんだよ、俺はこっち向けとしか言ってない。」

理解するより先に私の唇に頬より熱いものが触れて吸い付かれた。

私のお腹に回っていた方の手が胸へと上がって優しく撫でられてぴくりと体が反応してしまう。

「…やわらか」

キスの合間に独り言のように呟かれて胸を撫でる固くて大きな手の方に意識が向く。

…待って、こんなところではダメ……っ

抗議の言葉をあげたくても深く口付けられて甘い吐息しかあげられない。
智明さんの手はすでに、撫でるなんて優しいものではなくなっている。

「……はぁ…とも…ぁ」

智明さんの手を止めようと自分の手を重ねてきゅっと掴むが何故か更にキスが激しくなってしまった。

「……美晴………………」

…もうだめ
智明さんに触られたらすぐに気持ちよくなっちゃう
掠れた声で名前を呼ばれたら智明さん以外のことなんて全部どうでもよくなっちゃう


「…どうした?……気持ち良くなっちゃったのか。」

潤んだ目元を親指で撫でられ素直に頷く。

「智明さん、もっと………」



お別れの日を告げられてから、智明さんは更に私を構うようになっていた…

まるで本当の恋人同士のように…





*****

「「……いただきます。」」

2人で手を合わせて遅い晩御飯を食べる。


……なんでこんなことに


ぐったりしながら智明さんの部屋に置いてもらっている私専用の座椅子にもたれかかる。

結局あのままキッチンで1回したあとベッドまで運ばれて2回、3回………
その後はあんまり覚えていない。

そして、満足したらしい智明さんが足腰ガクガクな私を抱えてリビングまで運んで座椅子に座らせてブランケットをかけた後、台所に行きお湯を沸かす途中だったパスタを茹でたり冷めてしまった料理を温め直したりと手際よく準備してくれて今に至る。


智明さんが私のお皿によそってくれたものを食べようとするが、智明さんの厚手のトレーナーを借りて着ているため袖が長いしブカブカで巻くってもずり下がってくる。

「……お前不器用にも程があるだろ。」

隣に座っていた智明さんが見かねた様子で袖を綺麗に巻くりなおしてくれた。

「ありがとう」

「本当に美晴は手のかかるペットだよ。」

「ご主人様が甘やかすのがいけないの。」

「自覚があるなら少しは自分のことを自分でできるようにしろ。」


いつもだったらただのたわいない会話なのに、今日は『もう俺は居なくなるんだから』と言われているようで胸が詰まる。

「そうだね。もう、ペットじゃなくて野良になるんだもん。しっかりしなきゃね!」

明るく冗談で笑い飛ばす。
智明さんに嫌味も込めて。

飼い主なら責任持ってペットは死ぬまで面倒みなくちゃいけないこと知らないの?
捨てられて野良になったら死んじゃうんだよ?


「美晴ならすぐに飼い主が見つかるよ。」


なにそれ。
じゃあ新しい飼い主に預けてから実家にでもどこにでも行ってよ。

ああ、ダメだ。
今日が最後なのに。
笑顔でさよならを言うって決めてたのに。

ご飯を食べることに意識を向けるようにして、必死に涙を堪えた。
今日が最後。
今日が最後。

そう言い聞かせて何とか箸を進める。

夕食を食べ終えて残ったものは冷蔵庫へ。

私が智明さんの部屋に無理やり置いていた私物は置いていたら捨てると言われたのでいる物だけ持って帰っている。
座椅子は明日にでも捨てられてしまうだろうから、私の痕跡が残るのは多分この料理が最後だ。

彼の記憶に少しでも長く私が残りますように。
家の店での経験を思い出す度に私の事も思い出してくれますように。

すべての料理を紙皿へ移して冷蔵庫に入れ終える。
別れの時間だ。


もう体も落ち着いて家まで歩いて帰るのも問題なさそうである。
リビングに服を畳んで置いていたので、着ていた智明さんのパーカーを脱いでそのまま自分の服に着替えようとしていると、後ろから抱きしめられた。

「…積極的だな?」

ニヤリと智明さんが笑うが、完全に勘違いだ。
私は着替えようとしていただけだし、さっき散々したのに更に誘うなんて流石に体がもたない。

「…もう、何言ってるの?着替えるだけだもん。」
「着替え?そんなの必要ないだろ。あと寝るだけだし。」
「………?もう帰るよ?」
「…………。」

彼は何故か黙ってしまった。空気が少しだけ怖く感じた。

「帰る?最後なのに?帰してもらえると思った?」
「…え……でも、智明さ……んぅ」

言い終わらないうちに唇が塞がれた。
だって、今日が最後って智明さんが言うから…。
もう帰らないとって思って。
私、まだ帰らなくていいの?
一緒にいていいの?

でもこの前はダメって…
ペットは連れて行けないよって
向こうに婚約者がいて
その人が智明さんの奥さんになる予定で

私の私物も片付けられてて、ダンボールに入れられてて、持って帰れって言われて。
でも最後に私の座椅子は残してくれてたのが嬉しくて…
色々な事が頭の中で疑問となってせめぎ合う。


パーカーを脱いでキャミソールと下着だけだった私の姿は無防備過ぎて彼の手を止めようとしてもあっという間にすべて脱がされてしまっていた。

明るい部屋で裸を見られるのにはまだ抵抗があり、手で隠そうとしてもすべてが隠せる訳では無い。

どうにか隠そうとしていると智明さんが私を抱きしめ再びキスをされた。
智明さんはまだパーカーにスウェット素材のズボンを履いたままだ。
自分だけ裸にされている状況に更に羞恥心が増す。


「……はずかし……智明さん、電気……」

いつもならこう言うと、優しい智明さんは電気を消してくれるか、暗い方のベッドルームへと連れて行ってくれるのに今日は何故か無視される。
それどころかそのまま行為が進んでいく事に戸惑いで軽くパニックだ。
軽く抱きかかえられて私の座椅子に連れて行かれるとそのまま背もたれを倒され智明さんがその上に覆い被さる。

「ペットが恥ずかしがるなんて聞いたことないぞ。もう少しで気にならなくなるよ。」

そう言うと智明さんは私の両方の太ももに手を入れて開いた。

「………!?…いやっ!」

抵抗しようとしても力に敵うはずもなく全く歯が立たないまま大切な場所が明るい電気の下にされされる。
色々な事がキャパオーバーしてしまい、涙が零れそうになっているのに智明さんは全く気にしていないようだ。

そのままそこに智明さんの顔が躊躇いもなく近づく。

嘘、嘘、嘘!

あまりの衝撃で言葉も出ずに涙がとうとう頬を伝う。

同時にぴちゃぴちゃと水音も聞こえて恥ずかしさでどうにかなりそうなのに、体は智明さんを受け入れて喜んでいる。

舌で舐められながらナカに指が入れられ更に激しくなっていくともう考えることが出来なくなってただ声をあげることしか出来なくなってきていた。


「………熱い…」
呟くように智明さんが言うと、バサリと音がして智明さんが羽織っていたパーカーを床に落とす。
何度も見たはずなのに、見ている私が恥ずかしい。
くっきりとまではいかないが、うっすらと割れた腹筋が目に入る。

そのまま再び私の太ももの間へと戻ると先程とは比べ物にならないくらいの刺激が私の体に与えられた。


「……あぁっ!……やっ、もうやめ……」


指が増やされバラバラに動かされ、指の腹で色々なところを撫でられる。
私の片方の太ももを押さえ込んでいる彼の腕に手を添えて握っても、握り返して貰えない。


体が言うことをきかない。
怖い怖い。
智明さん、助けて……っ

いつもと違う。
いつも達しそうになって手を握って合図したら、ぎゅって抱きしめて貰えるのに。
智明さんの腕の中で安心して震える体を預けて、優しくキスしてもらって……


「………んんっ!」

必死で自分の体を抑えようと反対の手で口を塞ぎながら耐えようとしても出来ずに全身がぶるっと震えた。

何度か痙攣した後、ぐったりと座椅子に横たわったままでいると、ようやく智明さんが顔を上げて私を見たようだった。

「……すっげぇ可愛い……もっと前からしとくんだったな…」

何か言ってるみたいだがよく分からない。
「………ぅ……」

よく分からないまま、今までとは違う質量のモノが押し付けられてゆっくりとまた私の体を埋めていく。

今日は何度するんだろう…
最後だから…?

今日はもう何度もしたのにまだ圧迫感がすごい。

激しく揺すられて訳が分からなくなって、かすれた声で"すき"という言葉だけを何度も小さく呟くと、その度に智明さんはキスをしてくれた。








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