痛々しくて痛い
プロローグ
間違いなく、網膜が正常に情報を感知し、その像を鮮明に浮かび上がらせているというのに、それでも私は目の前の光景をにわかに信じる事ができなかった。


いや。

正確には、事実として受け止めたくなかった。


「そのような過程を経て、この【販売促進総合プロデュース課】、略して【販促総プロ課】は、来月より始動する運びとなりました」


約1ヶ月前に内示を受けた時から、想定外過ぎる人事異動に、オロオロオタオタ、てんやわんやの日々を過ごして来たというのに、さらに度肝を抜かれる出来事が待ち受けていたなんて。


「僭越ながら私、染谷樹がこの課の長として任命されました。今後の我が社のさらなる発展に貢献できるよう、ぜひとも皆で力を合わせて頑張って行きましょう」


そこで周りから自然と拍手が沸き起こり、心ここにあらずだった私はハッと我に返ると、慌ててその流れに従った。


「さて、私の挨拶はここまでにしまして、皆にも順番に自己紹介していってもらおうかな。えーっと…」


皆を見渡せる位置に鎮座する長机の前に腰を据え、粛々と話を進行していた課長の染谷さんは、場の雰囲気を和ませる為か、それまでよりも若干口調を砕けたものに変えた。


一瞬思案した後、自分から見て右側末席に座る彼に右手を向けつつ声をかける。
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