痛々しくて痛い
当然そのデータは登録済みだ。


月曜日までこの状態なんて、精神的に耐えられそうにない。


許してもらえるかどうかは別として、早いとこ謝罪してしまいたい。


いや、本来ならそんな重要な用件をメールで済ませるべきではないんだろうけど。


でも、メールだからこそ、一歩踏み出す勇気が出るというか…。


もちろん、後日改めてきちんと謝罪の場を設けるつもりではいるけれど、ひとまずのとっかかりとして利用するのはダメだろうか。


そんな事を考えながら、ついついケータイ画面に目を向けたままノロノロと歩を進めていた俺は、ハッと我に返った。


すでに3人は次の踊り場を抜けて、その先の階段へと差し掛かっている。


皆に追い付くべく、ケータイをポケットに仕舞い、急いで段を降り始めた俺だったが、数歩目で足を着く位置を誤り、靴裏がズルッと滑った。


そのまま体が前に傾き、『え?』と思っている間に宙に浮く。


とっさに手すりを掴もうとしたけれど、指先がかろうじて引っ掛かった程度ですぐに外れてしまい、落下を阻止する事はできなかった。


「慧人!」


真っ先にその状況に気付いたらしい伊織さんの、彼女にしては珍しく、かなり緊迫した様子の叫び声が階段室に響き渡る。


だけどその表情を確認する間もなく、踊り場まで転げ落ちた俺の意識は、床に頭を打ちつけた際の衝撃によって、一気に、深い闇の中へと落ちて行ったのだった。
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