痛々しくて痛い
「これからは気を付けるから、だから、許してくれる?」


口を真一文字に結んで、しばし考え込んでいた麻宮君だったが。


「…分かればよろしい」


おもむろにそう言葉を発したかと思うと、にっこりと、光輝く極上スマイルを浮かべたのであった。


その瞬間、目の前の少年は、今現在の、23才の彼へと姿を変える。


「お、おお~…」


私は思わず感嘆の声を上げてしまった。


麻宮君の少年期から青年期への変貌はすこぶる見事だった。


…さ~ん。


ため息が出るほど華麗だった。


たぬきさ~ん。



………ん?


たぬき?


どこからともなく聞こえて来たその声に『ハテ?』となる。


この都会のど真ん中に、たぬきが出現したというのですか??


「綿貫さ~ん」


そこで私の意識は一気に覚醒した。


ハッとしながら目を開け、いつの間にやら前のめりになっていた姿勢を慌てて正し、頭上から私に呼び掛けていたその人物と視線を合わせる。


「あぁっ。す、すみませんでした!」


夢の世界から帰還した私は、同時に今自分がどこに居て、眠りに落ちる直前まで何をしていたかを鮮明に思い出す。


会社を出て、駅前まで来た所で大通り沿いにあった銀行のATMで念のため5万円ほど下ろし。


染谷さんのメモとちょうどその近辺に立てられていた看板を頼りに無事病院までたどり着いた。
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