痛々しくて痛い
私を起こしに来た人物…初めに対応してくれた事務員さんは、優しく控えめに催促して来た。


「あ、はいっ。ただいま!」


記入自体は終わっている当該書類に急いで視線を走らせ、誤字脱字チェックをしてから、私は慌ててそれを彼女に差し出した。


「ありがとうございます。まもなく呼ばれると思いますので、もう少々お待ち下さいね」

「は、はい…」


事務員さんはにっこりと微笑みつつ書類を受け取り、窓口カウンター内へと歩を進めた。


おそらく居眠りしていた時からだろうけど、私と事務員さんのやり取りをチラチラと盗み見ていた周りの方は、私達の会話が終わった所で手にしていた雑誌に視線を落としたり、バッグの中を探って財布を取り出したりと、すぐさまそれぞれの世界に戻って行った。


なのでホッと胸を撫で下ろしつつ、私も先ほどの夢に思いを馳せる。


とても幸せな内容だったな…。


あんなにあっけなく仲直りできちゃったもんね。


だけど…。


夢が幸せ過ぎて、何一つ状況が変わっていないこの現実が、とてつもなく辛く悲しい。


あれは私の願望が見せた、あくまでもフィクションのハッピーエンドの物語だから。


いや、現実世界でも、勇気を出してきちんと謝罪すれば、事態は好転するかもしれない。


だけど、実は今まで誰とも喧嘩なんかした事なかったから、仲直りの方法も正直よく分からなかったりする。
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