痛々しくて痛い
「あ。起きた?」


気持ちとは裏腹に、我ながら緊張感0の、間の抜けた声になってしまった。


こういう時はもっと熱く、テンション高めに相手に呼びかけるんだよね。


ドラマや小説ではお約束の場面だもんね。


でも、実際に自分がその立場になってみると、なかなかセオリー通りの行動は取れないものなんだな、と思う。


事実は小説よりも奇なりとはこの事だね。


そんなどうでも良い事を考えている私を、ぼんやりと眺めていた麻宮君の目は、次第に焦点が合ってきた。


そしていきなりハッとした表情になると、彼は急いで右手を伸ばし、私の左腕をグッと掴む。


「いって!」


と同時に悲鳴をあげた。


「あ。右手の肘、捻挫してるんでしょ?無理しない方が良いよ」


しかし私のアドバイスは全く聞き入れられず。


麻宮君はますます、すがるように、必死に、私の腕を掴む手に力を込めた。


すこぶる顔を歪めながら。


……実は麻宮君て、Mの気があったりするのかしら?


「階段から、落ちたんだってね」

「…うん」


彼は弱々しく答える。


「額のここ、シート貼ってあるとこ、タンコブできた…。痛いよ綿貫…」


……え?


な、何だかずいぶん甘えっこだな。


そこで突然ふつふつと、今までの人生の中で抱いた記憶のない、ちょっぴりダークな感情が沸き起こる。


ここに来るまで、どれだけ心配したことか…。
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