五月雨・序
「あ、そういえばさ、俺兄ちゃんが居るんだよね。知ってた?テニス部の宮下茂樹。」
「うん。茂樹先輩は女子に人気あるよ。」
「ふ~ん。……俺の兄ちゃんの事は、名前で呼んでるんだ。俺は苗字呼びなのに……。」
すねた様に背中を丸める宮下。
何だかそれが可愛くて、笑ってしまった。
「宮下って、下の名前なんだったっけ?」
「あ、彼氏の名前ぐらい覚えてろよ~。」
「ははは、いっつも宮下だもん。」
「宮下圭吾。圭吾だよ。」
宮下圭吾。
アドレスに書いておこっと。
「圭吾かぁ~。」
「あ、呼んでくれた。萌える~。」
「ははは。」
「圭吾って名前、嫌いだけどね。」
「えっ……?」
「ん、こっちの話。」
振り返り際にふと見せた圭吾の表情は、ハッとするほど切なく見えた。
「婆ちゃんが付けてくれたんだ。」
「ふ、ふ~ん。」
その後の言葉は途切れるように。
アタシが、上の空だったから。
圭吾が、離れていく感覚が張り詰めていた。