あなたと月を見られたら。
いつものお昼時。
隣のデスクに座る彼女は難しい顔をして書類とにらめっこを続けている。
「うー!どうすれば…!
どうすれば〜…!!」
彼女が悩んでいるのはうちの出版社の創刊50周年記念のイベントの席次表。作家は作家同士のイザコザもあるからねー。この人とこの人は仲悪い、とか、この人とこの人は一緒の席にしたらダメ、とか暗黙の了解みたいなものが多くて大変なんだよね。
俺だったらそこらへんはテキトーに組んでみて後から席を取り替えるんだけど…生真面目な彼女は最初から真剣に悩み、決まっている席は仲良しの玲子先生の席しか決まっていない。
「竹田先生と楠木先生は仲悪いし、立花先生と楠木先生も犬猿の仲だし…!!」
ウンウン唸りながら悩んでる彼女に
「ちょっと貸して。」
「…へっ?」
「アンタ、要領が悪すぎる。
こんなの取りあえず上座から埋めてけばいいんだよ。人間関係は後!まず大事なのは社会的地位…ってね。」
牧村さんの目の前にあった席次表を大御所先生からガガッと名前を入れていくと
「すごい…!早い…!!」
彼女は目をキラキラさせながら俺を見つめる。
五分くらいでタタッと書き上げて
「ハイ。こっから人間関係を考えて席替えしてきな。2つのことを同時にやろうとするなんて効率悪すぎなんだよ。」
嫌味を込めてハイと紙を手渡すと
「ありがとうございます!
やっぱり麻生さんって頼りになるし…ブーブー言いながらも最終的にはいつも優しいですよね。」
天然不器用バカ女は嫌味にも気づかずにお礼の言葉を口にする。