砂漠の賢者 The Best BondS-3
   *

 ノービルティアの入口に到着してから既に四時間が経とうとしていた。

 日差しを除ける為だけの簡易テントの細い鉄の柱に背を預けたジストは急く想いを抑え煙草に火を付けた。
 反対側、つまりテントの内側から柱に凭れて眠るゼルの鼾(イビキ)が神経を刺激する。

 一度気になりだしたら何処までも神経を逆撫でし続ける。
 人間とは不便なものだ。

 さて拳か足蹴かどちらで起こそうか、この際両方してやったほうが少しは気が晴れるかと実行に移そうとした時。

 「?!」

 わあ、と歓声が鼓膜を揺らした。

 跳び起きたらしいゼルが柱で頭を強かに打ち付けた。

 「く~~~~っっ!!」

 頭を抑えて悶えるゼルにとりあえず拳を振り下ろし、塀の向こう側から聞こえる声に意識を巡らす。

 「アンタ今なんで殴ったよ?!」

 視線をノービルティアの塀の上部に向けながら憂さ晴らしだと答える。
 歓声は尚も続く。

 「しれっと言ってんじゃねェよ!」

 歓声が別の音に掻き消される。
 ドラのような音が鳴り響き、後には何か音楽のようなものが聞こえるが、ゼルの喚く声がそれを遮る。舌打ちを、一つ。

 「たいしたことじゃねえだろが。いちいち騒ぐな。起きてる時くらい静かに出来ねえのか、阿呆」

 「起き…? 意味わっかんねェこと言ってごまかそうったって、そーは問屋が卸さねぇぞ! 人の頭殴っといてたいしたことねぇってどーゆーこった?!」

 鼾の自覚が無いゼルは、今の若者が使わないだろう言い回しで更に声を張る。

 火に油を注いでしまった。

 「黙れと言っているのがわからねえのか。もう一遍殴るぞ」

 「せめて殴る前に言え! 思いっきり振りかぶって殴るかフツー?!」

 渾身の拳骨にゼルはやはりまた声を張りあげた。
 実力行使もゼルには通じないようだ。
 無駄に鍛えられた筋肉と打たれ強さが理由だろう。








< 34 / 147 >

この作品をシェア

pagetop