砂漠の賢者 The Best BondS-3
ゼルは両手で自らの頭を挟み、雲がひしめく空を振り仰いだ。
「なんっで試着したんだオレはーーっ!!」
二人分買う必要もなかったし、ましてや試着する必要もなかったのだ。
それこそがジストの真の嫌がらせ――悪戯心だったと気付いたところでもう後の祭り。
男として大事なプライドをただ溝(ドブ)に投げ捨てただけというわけだ。
色んな怒りと言葉が湧いたが、ごくごく普通の表情で立つだけのジストを見た時、それは諦めへと変化した。
この男には何を言っても無駄なのだろう、と。
「ジスト……退屈凌ぎなら他でやってくんねェかな」
あ、そんなこと。と艶姿のジストは笑う。
「エナちゃんが居ればしないよ」
つまりは、さっさとエナに会わせないといつまたこんな悪戯心を起こされるかわからないということか。
ゼルは溜め息を吐いた。
その首筋に、異変。
ぽたりと水滴が落ちて伝った。
「……雨か」
その声にジストが空を見上げる。
低く広がる雲は長い雨を予想させた。
このままでは直に本降りになるだろう。
「あーあ。優男に顔割れてるってのに……」
気が進まない、といった感じで呟くジストだが、化粧が雨に流される前に屋敷に入らねばならない。
天気に先を促されているような気になり、彼等の中に一抹の不安と諦めが。
この雨が何事かが起こる予兆のように感じられたのだ。
「ユーノでも言ったはずなんだがな……今回も一人で暴走か。一体俺を何だと思ってるのかねえ、あの姫は」
「俺ら、だ。俺ら。」
ちゅーくらいしてもらわないと割が合わん、と一人ごちるジストにゼルが訂正を加える。
雨が速度を上げて、彼らの背中をそっと押した。