きみが教えてくれた夏
「明日はどこへ行くの?」



わくわく。


いつの間にかわくわくこんな気持ちが私の心を支配していた。


自分でもびっくりだ。
少しずつ、本当に少しずつだけど私の中でなにかが変わっていく気がする。


太陽みたいにずかずかと私の心を照らすんだ。
時にはいらついて、時にはドキドキして。


時には、予測不可能で。



「悪い、明日からしばらくは行けねえんだぁ」



至極、真面目な声で言うきみに。
なにかあったのかと心配してしまう私。



「なんで?」



そりゃ、疲れも溜まるだろう。
自転車に股がってるだけの私とは違って海音はずっと漕ぎっぱなしだから。


そう思うけどなんか寂しくて。



「明日からは、東京にいる父ちゃんに会いに行くんだぁ」



少し声を弾ませた。


そっか東京にいるお父さんに…。



「そうなんだ、なら仕方ないね」



私がそう言うときみは自転車を止めた。
そして私の方を向いてこう言った。



「寂しいかぁ?」



なでなで。


優しい手つきでまだなんにも言ってないのに撫でてくれて。
私の方がこれでは犬みたいじゃないかって思ってしまった。



「大丈夫、全然寂しくないから」



嘘。
全然ってことはない。
でも寂しくて泣けることもないだろう。



「三日ぐらいで戻ってくるから、そしたらまた遊ぼうなぁ」



私をあやすみたいに目を合わせて優しく笑う海音はやっぱり少しだけ大人だ。



「や…約束」



なら甘えてみようと小指を出すと、海音はすぐに小指を絡めてくれた。



「あぁ、約束だ!」



きつく。


きつく。


小指をお互いに絡めて。




行ってらっしゃいって。




だから今だけは明日になる前の今だけはきみの背中に触れていたい。
ねぇ、これぐらいならいいでしょう?
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