続・祈りのいらない世界で
「なーにを喧嘩してんだ?あいつらは」


「わかんない。でもカンナがあそこまで感情的になるのって珍しいよね」


「だな。フウをほったらかすくらいだからな。ケンのバカが何かやらかしたのか?」



キヨに抱きついてひっくひっくと息をあげているフウの頭を、優しく撫でるイノリ。




「よしよし、泣くな。可愛い顔が台無しだぞ」

「ふふっ。イノリ、パパみたい」

「……ねぐしぇ、ふうのぱぱ?」

「フウのパパはカゼだよ。あの写真がフウのパパよ」



イノリにポンポンと撫でられながら、フウは潤んだ瞳でジッとカゼの写真を見つめていた。


暫くすると言い合いが終わったのか、家の中は静かになった。




「ちょっとカンナの様子見てくるね。イノリ、フウお願い」



キヨはイノリにフウを渡すと、カンナの部屋へと向かった。

部屋に入ると、カンナはベッドの上に伏せていた。




「カンナ?どうしたの?今日はいつもにまして凄い喧嘩してたけど…」



キヨがベッドの端に腰を降ろすとカンナは顔をあげた。


アイラインやマスカラが落ち、カンナの頬は黒くなっている。




「…私、実家に帰ってシングルマザーになろうと思って。その事について話し合ってたのよ」


「えっ!?シングルマザー?なんで!?ケンの事、嫌いになったの?」


「違うわ。…私はケンに何もしてあげられない。ケンが可哀相だと思ったの。…好きでもない女と血の繋がらない子供を養うなんて。ケンにはケンの人生があるのに。だからパートを始めてお金を貯めていたのよ」


「カンナ、ケンはそんな事望んでないよ?例え愛されなくても、フウの本当のお父さんじゃなくても…ケンは今幸せだと思うよ?」



キヨは指で汚れているカンナの頬を優しく拭った。




「…だって籍は入れてないけど、私達一応夫婦よ!?なのにケンはキスも何もしない。未だにキヨキヨ言ってるもの…」

「…え?ちょっと待って。カンナ…ケンの事好きなの?」



キヨの言葉にカンナは真っ赤になって泣き出した。
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