続・祈りのいらない世界で
「…なんでだろうな。俺はカンナの妊娠がわかった直後は、カンナと結婚しようと思ったのに。カゼの代わりにそばにいたいって思ったのに…。

…カンナに結婚はしないって言われた瞬間、全てが冷めていった。

やっぱり俺なんかじゃカゼの代わりにはならないんだって…そう思ったんだよ」


「今とあの頃じゃ違うだろ。今のカンナはお前のおかげでカゼを失った絶望から這い上がって来れたんだよ。だからケンに惚れた」


「俺はあの時、カンナへの気持ちが完全に冷めた。だからもう恋愛感情は持てないよ。…恋愛ってそういうものだろ?タイミングを逃したら、もうダメなんだって。
俺はここから出て、1人で暮らすよ。養育費も払う」


「…養育費って簡単に言うけど、お前を父親だと思ってるそのフウはどうすんだよ」



フウという言葉にケンは反応する。


血は繋がっていなくても自分を父だと思い甘えてくる可愛い息子。




「お前が悩んだ末に出した答えなら俺は口出しはしない。俺がこの家を出る決意をした時、お前がそうしてくれたようにな。
ただな、俺と美月がまだここにいる間は1人で悩むな」



優しい声で話すイノリだが、ケンは何かが引っ掛かった。




「まだここにいる間はって何?」

「…いや、何でもない。とにかくよく考えろ。決断に急ぐ必要はねぇよ」



イノリはケンの肩を叩くと、ケンの部屋から出て行った。






24年間、そばにいるのが当たり前だった彼らは

『大人』という人間になった今、別れを考えなくてはいけなくなっていた…




それぞれの気持ちがあって
それぞれの家庭がある。




いつまでも幼なじみと一緒にとは、いかなくなっていたのだった。
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