続・祈りのいらない世界で
「やだっ!イノリ嫌い!!どいて!!重い!!!!」

「…嘘でも浮気するなんて言うな。怒るぞ」

「嘘じゃないもん」



キヨがフンっと顔をイノリから反らすと、イノリはキヨの首に噛み付いた。



「いっ…!!痛い!!!!」



バタバタと暴れるキヨだが、イノリに押さえつけられてる為、身動きがとれない。


イノリがゆっくりと顔を上げると、キヨの首には歯型とキスマークがくっきりと刻まれていた。




「…浮気なんてさせねぇよ。お前は俺のものだ」



イノリがキヨを見ると、キヨは青ざめながらグッタリしている。



「美月?」

「…っ…。頭痛い…」

「頭?お前、病院で頭痛薬処方してもらったんだろ。ちゃんと飲んでんのか?」



力無く頷くキヨ。


妊婦用に処方される頭痛薬は、キヨがたまに服用する市販の頭痛薬に比べて軽い。


その為か、あまり効果がなかった。




「…ご飯の用意しなきゃ。イノリ…待っててね」



キヨは立ち上がると、フラフラと台所へと向かった。



何とか夕食の支度を終えたキヨは、イノリとフウがご飯を食べている間、ずっとソファに寝そべっていた。




「……きよ、ねんね?」

「そう。キヨは疲れてるんだよ」

「……ねぐしぇ、きよにめっ、したの?」

「してねぇよ。俺は優しいからな」



ポロポロとご飯をこぼすフウの口元を拭いながら、フウと話すイノリ。


フウはクリクリとした瞳でイノリを見つめると、フルフルと首を振った。




「あ?何で首振るんだよ。…俺は優しくないってか?」

「……あい」



頷くフウを見てうなだれるイノリ。



イノリとフウが黙々とご飯を食べていると、いきなりキヨが起き上がり、洗面所へと駆けて行った。


リビングにまで聞こえるキヨの吐いている声。



暫くして吐く声が聞こえなくなっても、キヨはリビングに戻ってはこない。



不審に思ったイノリが洗面所に向かうと、キヨは頭を押さえながら壁にもたれていた。
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