続・祈りのいらない世界で
元から口は悪いし、ロマンチックな気の利いた言葉なんて言ってくれないイノリ。



そんなのわかってるし、そんなもの期待していない。


だけど他の女を可愛いだなんて言って欲しくない。




「…いつからこんなにヤキモチ妬きになったんだろう。もう幸せなはずなのに…」



昔、イノリは『大切なものを失いたくないから手に入れない』と言っていた。



あの頃は、欲しいなら何も迷わず素直に欲しいと手に入れればいいのに…と思っていたけど

今ならわかる。




幸せになればなる程、それが夢のように儚く覚めていく気がして恐い。

だから増えていくワガママと独占欲。



イノリもカゼもこんな想いを抱えていたんだね。





キヨは部屋に置いてあるドレッサーの前に座ると、ハサミを手に取り髪にあてがった。



「美月、風呂入らねぇか」



キヨをお風呂に誘いに来たイノリがキヨの部屋に入ると、イノリの目には見知らぬ女の子が映った。




「…は?えっ…美月?」



イノリの目に映ったのは、バッサリと髪を切り落としたキヨ。


ショートカットのキヨなんて23年間生きてて初めて見る。




「何やってんだよ、お前は」

「…だって…イノリっショートの女の子好きって…可愛いって言ったもん…」



キヨは長年大切に伸ばしてきた髪を切った事が悲しい気持ちと、イノリへの嫉妬心で泣き出した。




「バカだな。お前は何もしなくても可愛いんだからいいんだよ、そのままで」

「…イノリっ」

「てか、ショートになって可愛くなりすぎだ。お前、髪伸びるまで外出禁止だからな!買い物はケンに行かせろ」



そう言ってニカッと笑うイノリにキヨは抱きついた。


イノリはキヨを抱きしめ返すと、ソッとベッドに押し倒した。
< 27 / 386 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop