続・祈りのいらない世界で
「イノリ、子どもが欲しいんじゃないかしら?」

「へっ?子ども!?」


キヨは声が裏返る。




「フウをあやしてるイノリを見てそう思ったのよ。でもイノリの性格からして、子どもにキヨを取られたくはないんだと思う。だから葛藤と闘ってるのよ、きっと」


「子どもかぁ。欲しいし、子どもがいる家庭って憧れるけど、今は恐いかも…」


「恐い?出産が?」


「ううん。私、一度流産してるでしょ?だから恐い…。私に新しい命を産む権利なんかあるのかな…」



キヨがカゼの写真を見つめながらそう呟くと、リビングにやってきたイノリがキヨの頭をポンと叩いた。




「さっきは悪かったな。早く飯の用意しろ、腹減った」



カンナとの話を聞いていたのかいないのか、イノリは話に触れる事なくソファに腰掛けた。


カンナは2人に気を使ってリビングから出て行った。




「…最近何かあったの?」

「あ?別に何もねぇけど」

「そう?ならいいんだけど」



キヨは黙々とご飯を食べるイノリを見つめた。





フウを見ていると、子ども欲しいなぁって思う。


イノリとの大切な愛を形としてこの世に作りたいとも思う。



でも私は一度、お腹に宿った命を殺している。




愛していない人との命だからと、簡単に“いらない”と思った私が

愛する人との命だから産みたいと思ってもいいのかな?



…いいわけないよね。





キヨが顔を伏せていると、テレビを観ていたイノリが呟いた。



「この女優の髪型可愛くね?」

「へ?髪型?」



キヨがテレビに視線を移すと、今人気の女優が主演するドラマが放送されていた。


その女優の髪型はショートカット。

小さい頃から髪の長いキヨとは正反対。




「俺、ショート好きだな」

「…私、セミロングだけど?可愛くないって言いたいの!?」

「別にお前は何でもいいよ。ロングだろーが、坊主だろーが」

「坊主なんかにするワケないでしょ!?イノリなんか嫌いだっ!!」




キヨはイノリにクッションを投げると、自室へと向かった。
< 26 / 386 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop