続・祈りのいらない世界で
暫くテレビを観ていると、勢いよく玄関のドアが開く音がした。



「あっ。イノリ帰ってきた♪」

「本当キヨってご主人の帰りを待つ犬みたいだなぁ」



尻尾が生えてたら千切れんばかりに振っているであろうキヨは、玄関に駆けていった。




「イノリっ♪おかえりなさい」



玄関に突っ立っているイノリにキヨが抱きつくと、イノリは力なくその場に座り込んだ。


キヨはイノリの異変に気付く。




「…イノリ?どうしたの?」

「…………」

「何かあった?酔ってるだけ?」



何も返答をしないイノリの顔を見ると、イノリは少し涙目になっていた。




「イノリ?」



キヨがイノリの頬に手を添えると、イノリはその手を握り締めた。




「…よかった。お前で…」

「え?何?」

「…何でもない。悪かった」



イノリはそのまま部屋へと入っていってしまった。



何かに怯えているような、寂しそうな瞳をしていたイノリ。


キヨは何故、イノリがそんな瞳をしていたのかがわからなかった。




イノリの全てをわかっている気になっていたけど

本当は何もわかってないのだとキヨは知った。






翌日。

昼過ぎにイノリが目を覚ますと、隣には寒いのか縮こまって眠っているキヨがいた。


キヨはイノリの手を握っている。



イノリはキヨがここで眠っているワケに気付いた。



「…心配してくれたんだな」



イノリがキヨの髪を撫でると、キヨはもぞもぞ動きながらイノリにすり寄った。




「…イノリ、昨日どうしたの?」



キヨは目を瞑ったまま話し始めた。




「…何もねぇよ。酔ってただけだ」


「嘘つき。何かあったんだって顔見ればわかるよ」


「俺は男なんだ。それにもう父親になるんだぞ。弱音なんか吐けるかよ、カッコわりぃ」


「…弱音をね、誰かに吐ける人の方が強いんだよ?だからいいの。イノリは私の前では我慢なんかしなくていいの」




キヨがそう言うと、イノリはポツリ、ポツリと話し始めた。
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