続・祈りのいらない世界で
それは昨夜のこと。

会社の忘年会に出席したイノリは、同じテーブルに座る上司や同僚と話し込んでいた。



「北山くんはまだ新婚だから奥さんが可愛くて仕方ないだろ?もうすぐ子どもも生まれるし、若いのに頑張るねぇ」


「まぁ幼なじみですから新婚って感じがした事はないんですけどね」


「俺なんて結婚して随分経つからもう嫁なんて俺に無関心だよ」



既に出来上がっている上司は家庭の不満を愚痴り出した。




「新婚の1年くらいだよ。お出迎えしてくれたり、いってらっしゃいのキスしたり、甘えるのは。女なんてそんなもんだ。子ども優先でいずれ亭主は邪魔者扱い。…北山くんも気をつけな」



上司の愚痴を聞いていたイノリは

いつかキヨも子どもにばかり構い、自分に無関心になってしまうのだろうかと思った。




いつも朝は仕事に行かせまいと、遅刻ギリギリの時間まで抱きついて離れないキヨ。


いつも仕事から帰るとなりふり構わず走って玄関までやって来るキヨ。




そんなキヨの姿は今だから見れるのだろうか…。




そんな気持ちを抱きながら家に帰ると、嬉しそうな声と共にキヨが玄関に駆けてきた。



「イノリ♪おかえりなさい」



満面の笑みで抱きついてくるキヨを見て、他の家庭がどうだなんてわからないけど、キヨは変わらない。


キヨを選んでよかったとイノリは思った。






「…俺、思ってたよりお前に支えられてたみたいだな」



昨日の出来事を話したイノリがキヨを見るとキヨはまだ目を瞑っている。



キヨは寝ぼけたフリをした方がイノリが話しやすいと思っていたのだった。




「私は変わったりしないよ。これまでの24年間、私が変わった事なんかないでしょ?」


「そうだな。美月は変わらねぇか。…俺は何の心配してたんだろうな」




イノリはキヨの瞼をなぞる。
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