続・祈りのいらない世界で
「会社には昨日電話しといたから。今日、明日は様子見る為に休んでいいって」

「…あぁ」



キヨとイノリは医師に次に病院に来る日や家で出来るリハビリの方法、抜糸の時期などを聞いた後、病院を後にした。




「…うーん。片手が使えないからイノリに抱っこしてもらえないね。つまんないの」



病院からの道を歩いていると、キヨはフウを抱っこしながら拗ねたように呟く。


そんなキヨをイノリは無言のまま片手で抱き上げた。



「お前くらい片手で十分だ。俺をなめんなよ」



イノリはキヨを降ろすとポンとキヨの頭を叩いた。




「それよりお前、昨日の夜俺がいなくて泣いてたろ」

「泣かないもん!!フウと一緒に寝たから寂しくなかったもんね」

「フウに一緒に寝てもらったの間違えだろ」



騒ぎながら家に帰ると、早速事件が発生した。




利き手が使えないイノリは服のボタンの付け外しが出来ない上、ズボンも上にあげられない。


そんなイノリを見かねたキヨは、服を着る手伝いをした。



「…何かおじいちゃんの介護してるみたい」

「うるせぇな!!」



苛々しているイノリは、ドカッとソファに座ると処方された痛み止めと抗生物質の薬を飲む。



キヨはイノリを気にしながら、夕食の準備に取りかかった。




「イノリ、スプーンなら右手でも使えるでしょ?今夜はカレーにしたからね」



キヨがキッチンからリビングを覗くと、イノリは薬を飲んだ為眠気に襲われたのか、ソファにグッタリと寝そべっていた。




「…何も出来ないダメな奥さんでごめんね。イノリは私に何でもしてくれる素敵な旦那さんなのにね」



キヨはイノリの癖っ毛頭を撫で、額にキスをすると、再びキッチンに戻った。
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