続・祈りのいらない世界で
「何事かと思ったよ…俺がワケ聞いてもずっと泣いてるだけなんだもん」


「美月は俺が黙って出て行ったあの出来事がトラウマになっちまってるからな」


「それはイノリが悪い。イノリがケガしてからフウの機嫌も悪いし」



ケンは床に丸まって眠っているフウを抱き上げると、ソファの上に寝かせた。




「美月が俺につきっきりなのが不満なんだろ。いつもはずっと自分が美月を独り占め出来んのに。…フウが俺に懐かねぇワケだ」



イノリが真っ赤に腫れたキヨの瞼を優しく撫でると、キヨは眉間に皺を寄せる。




「それにしても、やっぱりイノリはキヨをあやすのが上手いね。…悔しいけどそれは認める」


「当たり前だろ。誰よりも面倒見てきたんだぞ?それなのに他の男もあやすの上手かったら悔しくね?
まぁ…他の男に美月を泣き止ます事は出来ねぇけどな」



最近大人びて見えるようになったキヨだけど

たまにこうやって泣いたり甘えたがりが度を超える時がある。



でもそれでいいとイノリはキヨに伝えた。




泣かない、甘えない大人なキヨはキヨじゃない。

キヨが自分を必要としなくなる事が恐い…。





小さい頃は守らねばならない存在として

華月との事があってからは償いとして

離れていた時は幸せになって欲しくて


ずっと大切に思ってきた。




そして今は…。



「イノリ」



この世で唯一、自分の生きている意味を教えてくれる存在として大切にしている。




小さな手のひらで大きなイノリの親指をしっかり握り締めるキヨをイノリは優しく見つめていた。
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