続・祈りのいらない世界で
「ふふっ。お酒が入った男同士の会話って面白いね」



仲良く話し込んでいたイノリと父の元にキヨが料理を運んできた。



テーブルに皿を並べるキヨを見たイノリは、トイレへと向かった。




「…祈。ちょっといい?」



イノリが用を足してトイレから出ると、トイレの前に帰る支度をした華月が立っていた。




「華月、もう帰るのか?正月なんだから泊まっていけばいいのに」

「旦那と優月が待ってるから」

「今の旦那とは上手く行ってるんだな」



イノリが華月に微笑むと華月も穏やかに微笑んだ。




「それより何か用か?」


「うん。祈にちゃんと伝えたい事があって。

…私ね、きっと祈の事が好きだった。

だから子どもなんて好きじゃなかったけど、祈との子だったら生みたいって思ったのよ。…祈の子じゃないって分かった時、本当にショックだったもの」



「すっげぇ今更だな」



「今だから言えるのよ。

私、美月を羨ましいと思ってるだけなら、美月を裏切ってまで祈と関係を持とうなんて思わなかったはず。

だからそれは、祈が好きだったからなんだと思う。

祈は、どんな手を使ってでも手に入れたいくらい理想そのものだったわ」



「ありがとうな、華月。素直に嬉しいよ。でも俺は…」



「小さい頃から美月しか眼中にないって言いたいんでしょ。わかってるわよ。

…私は美月には適わない。どんなに美月より頭が良くても綺麗でも、私には何をしても手に入れる事が出来ないものをあの子は持ってる。

私はただ、祈との過去に終止符を打ちたかっただけなの。

前の旦那とダメになった理由…もう、あなたを思い出さないようにする為にね」




華月はイノリの顔を見入った後、そのまま清田家から出て行った。
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