続・祈りのいらない世界で
“ア”“イ”“シ”“テ”“ル”



声にはならなかった言葉。


しかしちゃんと、イノリには届いていた。





「ああ、俺も愛してるよ」




よかった。

愛した人がイノリでよかった。



ありがとう、イノリ。




私と…

出逢ってくれてありがとう。





「美月…!?おいっ!美月!!」



ごめんね。

ちょっと疲れちゃった。




こんなんじゃ陽ちゃんに兄弟を作ってあげられないね。



私は…
ダメな…ママだなぁ。






キヨは微笑むと、そのまま目を瞑った。





イノリと繋いでいた手はイノリから離れ

分娩台に落ちた…。




薬指に嵌められた結婚指輪がコツン…と虚しい音を立てる。







「先生!!北山さん、出血が酷いです!」



胎盤が剥がれ落ちると共に大量に出血してしまったキヨ。

助産婦達は慌ててキヨの処置をする。




「嘘…だろ?何で…」



ピクリとも動かないキヨを呆然と見つめるイノリ。


イノリはキヨの肩を掴むと激しく揺さぶり始めた。




「美月!!おいっ!美月!!ふざけんな!起きろよ!!なぁ!!」

「旦那様、揺すらないで下さい!大丈夫ですから落ち着いて」



…大丈夫?

大丈夫なワケない!!



大丈夫なら何でっ…



美月は動かねぇんだよ!!





「やだ。嫌だっ…!美月…やめろ。やめてくれ……。俺から…いなくならないで」



幸せな産声が響いていた分娩室には

イノリの悲しい嘆き声が響き渡っていた。
< 330 / 386 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop