続・祈りのいらない世界で
「これは俺が作る最後の曲だよ」


「もう作らないの?」


「うん。でもきっとコンバイン運転しながら歌って、そしたらまた作りたくなるかも。俺将来、ロッカー農夫って有名になるかもね」



ケンの言葉に笑っていたキヨだが、その目には次第に涙が滲んできた。




ヨウセイへの祝福の歌が

サヨナラの歌に聴こえたから…。





「…キヨ。俺の歌が聞きたくなったらいつでも呼んでね?すぐ、飛んでくるから」

「ケン…」

「俺らは家族だもん。今までも、これからもずっと一緒だよ」

「うん、ありがとう」




世界の果てと果てに離れるワケじゃない。


会おうと思えば、いつだって会える。



だけど…


会おうと思わなきゃ会えない距離が…寂しかった。





「ただいま」

「カンナ、おかえり」



夜になって帰ってきたカンナがリビングに入ると、洗濯物を畳んでいるキヨに絡みついているフウが目に映った。



あれからキヨをママと呼ばなくなったフウだが、母親に甘えるように寄り添うのは変わらない。



フウを見つめるカンナに気付いたキヨは、フウに話し掛けた。



「フウ、ママが帰ってきたよ。おかえりは?」

「……かんな、おかえりしゃい」



足元に駆け寄ってきたフウを見下ろすと、カンナはフウを抱きしめた。




「…カゼ…カゼっ!!」

「……じぇ?」



カゼとは何なのか分からないフウは首を傾げる。


カンナは小さな、でも大きくなった息子の体をキツく抱きしめ、泣いた。
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