純白の君に、ほんのすこしのノスタルジアを。
3
* * *
今でも、あの日のことを鮮明に思い出せる。
六月に入った、最初の月曜日のこと。
――父が出て行った日のこと。
その日、妹は大学の講義が休講になったとかで家にいた。
ほとんど毎日のように入っているバイトもその日は休みだった。
めったにない貴重な全休の日に、妹は昼の二時まで寝ていた、と後から聞いた。
俺は、というと、大学に行っていた。
講義に出て、研究室でしばらく勉強して、夕方の五時頃になって帰ろうとしたとき、スマートフォンのロック画面に通知が来ているのに気がついた。
父さんからのメールだった。
基本的に、両親は俺たちに用事があったら電話をしてきた。
文字を打つのが面倒だからだ。
だから、珍しく父さんから来たメールに、なんだか胸騒ぎがした。
文面は、たったの二言。
俺は出て行く。いつ戻るかはわからない。
それだけだった。