不要なモノは愛
「手をどかしてくれませんか」


手くらいは動かせるはずだ。お腹に手を当てられるのは、小さい頃、お腹が痛くなったときに、母に撫でられた時以来だった。

後ろから抱き締められる形で当てられるのは初めてだし、とにかく何度思っても恥ずかしい。


「どかすといっても、手の行き場がなくて、困るんだよね」


「横に置いたら…」


「横?」


「だから!触られたら困るって言ってるの…」


横に宙ぶらりんとすればいいと思ったのに、横に移動した手は私の腰に来た。横に移動して触れとは言っていない…。

腰を触られるのは、もっと困る。くすぐったいというか、どんなふうに表現したら分からないけど、もっと恥ずかしいのは確かだ。

ああ、もう!

とりあえず点灯する瞬間は見た。今、合唱隊らしき子供たちが出てきて、歌を歌い始めた。かわいい子供たちだけど、見なくてもいい。

もうこの場から出たい。

松野兄の右手を握って、引っ張るようにして人混みから出た。
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