欲しがりなくちびる
3
日常は、ボードゲームの‘人生ゲーム’のようなものだと朔は思っている。

毎日は何があってもなくても必ずやってきて、1日24時間という決められた枠の中で時間割に従ってやりくりしていく。

‘ジグゾーパズル’のようだと言う人もいるが、朔にしてみれば、‘人生ゲーム’の小さなプラスチックの車に差した自分を現すピンク色のピンのようで、足りないピースを探す日々というよりは、ルーレットに翻弄されては一喜一憂する巨大なゲームの一コマを実写で体験しているに過ぎない。

勿論、自らの努力から勝ち取るものもあるだろう。

けれども大体は、自分に選択権なんてものはなくて、たまのご褒美に喜んでは途端に躓いたりして、心もしくは身体が全治3週間なんてことを繰り返す。

稀に良いことも悪いことも起らず、平穏という名の時間が緩やかに過ぎていくこともあって、それこそが、誰もが幸せと呼んでいるものだということを朔は最近知った。
 
ときに転寝したくなりそうなほどの退屈を感じながらも、うんざりさせられるほど放置されるわけでもない。仕事をそつなくこなしながら友人と飲み歩いたり、たまに参加する合コンで適度な緊張感を楽しんだりしてバランスを保っている。

最近の彼女は諦めとは違う、穏やかな日々を受け入れる罪悪感が薄らいできたように思う。

棚上げしたままの暢のことも、考えたくないときには考えずにいることもできるようになっていた。

ただ逃げているだけだということは分かっている。  

どうしてこんなことになってしまったのだろう。

考え始めると、渦のなかに巻き込まれてあっという間に身動きが取れなくなってしまう。

暢と連絡を絶ってから、2ヶ月が過ぎようとしていた。

< 67 / 172 >

この作品をシェア

pagetop