欲しがりなくちびる
「あー、もう。ティッシュそれしかないから、いい加減泣きやめよ」
それから20分後、迎えにきた浩輔が運転する車の助手席で朔は大泣きしていた。
堪えようとすればするほど込み上げてきて、それを失敗すると引付けを起こした子供みたいに咽返ってしまう。
途方に暮れた浩輔は、信号待ちの度に彼女の髪を撫でたり背中を擦ったりと慰めてみたものの、余計に涙の原因になると気付いてからは、ラジオをつけたきり黙ってしまった。
車は地下駐車場へと潜り込む。浩輔が暮らすマンションに到着した。二人して乗り込んだエレベーターは、2階のロビーで一旦停まると仕事帰りの中年サラリマーンを同乗させ、さらに上昇していく。
その男性が6階で降りると、浩輔は人目につかないようにと自分の影になるように隠していた朔にちらりと振り返り、もう大丈夫とばかりに視線で合図をするとインジケーターを見上げた。
11階のランプが点灯して扉が開き、浩輔は「こっち」と言って朔を先導する。
中央部分が吹き抜けになっている回廊の突き当たりが彼の部屋だった。
それから20分後、迎えにきた浩輔が運転する車の助手席で朔は大泣きしていた。
堪えようとすればするほど込み上げてきて、それを失敗すると引付けを起こした子供みたいに咽返ってしまう。
途方に暮れた浩輔は、信号待ちの度に彼女の髪を撫でたり背中を擦ったりと慰めてみたものの、余計に涙の原因になると気付いてからは、ラジオをつけたきり黙ってしまった。
車は地下駐車場へと潜り込む。浩輔が暮らすマンションに到着した。二人して乗り込んだエレベーターは、2階のロビーで一旦停まると仕事帰りの中年サラリマーンを同乗させ、さらに上昇していく。
その男性が6階で降りると、浩輔は人目につかないようにと自分の影になるように隠していた朔にちらりと振り返り、もう大丈夫とばかりに視線で合図をするとインジケーターを見上げた。
11階のランプが点灯して扉が開き、浩輔は「こっち」と言って朔を先導する。
中央部分が吹き抜けになっている回廊の突き当たりが彼の部屋だった。