眠れぬ夜をあなたと
act.5 ワン アンド オンリー
***
「蓮田ちゃんっ‼ このあとは時間が空いてるって言ったよねっ?」

打ち合わせの終わり間際、スマホにかかってきた電話で飛び出していった月刊女性誌『マーレ』編集部の戸倉さんは、会議室に戻ってくるなり、私の目の前で両手のシワとシワとを合わせた。

打ち合わせを中座したことへのお詫びでないことは、長机の上に広げた見覚えのない資料が物語っている。

「な、なんですか。いきなり」

「お願~い、蓮田ちゃんも参加してちょうだいよっ」

さらに拝み倒され、背中の辺りに嫌な予感がむずりと走った。

打ち合わせの間にはさまった雑談のなかで、この後は特に予定を入れてないからそこら辺をぷらっとしようかな、と言ったのがいけなかった。

「今夜、ホテルの部屋を借りて女子会的な座談会をする予定なんだけど。実は、仕込みが胃腸炎にかかったらしくってドタキャンなんだわ。今、担当のところに電話があったって、出先から慌てて電話してきたところでね」

『仕込み』なんていうと聞こえは悪いけれど、ようは話の主導権がインタビュアーに傾きがちにならないように素人さんの話を引き出す、編集部側が用意した陰のインタビュアーその2のことだ。

「あぁ、まぁ。それは…大変ですよね」

他に返答のしようがなくて、当たり障りのない相槌を打った。

「だ・か・ら・さ~、蓮田ちゃ~ん。美味しいお酒付きよ? もちろんバイト料も払うし」

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