眠れぬ夜をあなたと
戸倉さんは人畜無害そうな表情をわざわざ作って、にっこりと微笑む。その顔は逆らえない笑顔で怖い。

参ったなと、彼女から目をそらすと、読むつもりもない資料の表紙が目に入った。

どうやら今日の座談会のテーマは『二十代女子の恋愛事情』のようだ。こんなベタな内容を見ず知らずの他人と語らうなんて正気の沙汰か、と言ってやりたいところだけれど、日頃仕事を回してもらっている身では口を閉ざすしかない。

「せっかくモニター会社に頼んで五人も揃ったっていうのに。でさ~、今日の進行は津村君なんだよねぇ」

戸倉さんはボーイッシュなベージュ色の唇を尖らせた。まだ二年目の後輩、津村君にすべての仕切りを任すのは心もとないということなのだろう。

「そんなの、戸倉さんが仕切ればいいんじゃないです?」

「ダメダメダメ。残念ながら私よりもね、弟みたいな津村君のほうが若いこのガードが緩くなるの。前のときは私が押せ押せみたいな絵面になってて、たまたまモニタリングしてた編集長に失笑されたのよ。『戸倉は若いのに混じっても元気がよすぎて、みんなの意見食べちゃうね』だって」

戸倉さんは三十代半ばのエネルギッシュなひとだ。たしかに真夏の太陽みたいな戸倉パワーでは、まだ二十代半ばの女性たちを簡単に圧倒してしまうのはよく分かる。

「うわぁ。……台本まできっちり作ってあるし」

「津村君を信用してないわけじゃないけど。何せ、まだ若造だから、収拾がつかなくなったら困るしね。ちゃんとモトをとってほしいわけ」

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