【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
水無月に促されるままに屋敷へ入り、ずんずんと廊下を歩いていると、不意に水無月が立ち止まった。


「有明様の部屋、まんまだけど『有明の間』だよ」


そっと露李に囁いてから、部屋の中にいるであろう人物に声をかける。


「有明様。水無月、帰還いたしました」


跪いて返事を待つ。


「入れ」


低くもなく高くもない、不思議な声がした。

はい、と二人で返事をして中へ入る。


広い部屋の奥に御簾があり、そこに人影が見えた。


「よくぞ参った、風花姫」


「…はい」


花霞を狙い、ついては露李も狙っていた人物。

自分で決めたこととはいえ身体が固くなる。


「そう固くならなくても良い。お前がここに来たことで我等はお前を拐う必要は無くなったのだから」


感情の読み取れない声だな、と思っていると。


「時に、水無月」


即座にその印象は打ち砕かれた。

一瞬でそれが冷たい怒気を含んだものに変わったからだ。


水無月も目に見えて身を固くした。


「私から逃げ出すとは見上げた度胸だな」


「逃げ出したつもりはありませんが?」


緊張しているように見えた水無月は、あくまで飄々としている。


「有明様がはぐれ鬼だって言ったから出て行ったんじゃないですか」


「はぐれ鬼だとは言ったが。出て行けと言ったつもりはない。そしてお前は言われなくとも風花姫を迎えに行っていただろう」


「はぐれ鬼とはそういうことでしょう」


「鬼の間では、だろう。ここは鬼だけの集団ではないだろう」


水無月は悔しそうに御簾の奥を睨む。


「風花姫」


突然、名前を呼ばれた。


「はい」


咄嗟に返事ができるほどの自覚はなかったのだが。


「なぜ、ここに来ようと思った?」


単刀直入だ。


「私があそこを離れることで、皆を救えると思ったからです」


「ほう…それはまた賢明な選択だな。確かに花霞は風花姫が居ない方が落ち着くし、あれの放つ気に気づいて狙ってくる輩も少なくなる。よって守護者どもが風花姫を守るために傷つかなくても良い…ということだな」


だが、と有明は続ける。


「花霞を狙っていた点では、我等も例外ではなかったはずだが」


それはそうだ。 

露李はぐっと言葉をつまらせた。


「まあ…我等では花霞の封印は解けぬからな。加えてお前は鬼。奴等には過ぎ足るものだ」


それで納得したのか、沈黙が訪れる。

露李は自分の身勝手さを突かれ、黙り込んでいた。


「水無月。風花姫を連れて来たから今回は帳消しだ。分かったな」


「…はい」


「そして、風花姫。ここへ来い。お前と話してみたい。それに真の姿を晒したままでは心苦しいだろう」


露李は自分の姿を再確認し、はい、と頷いた。


角も髪色も目も、鬼の姿のままだ。


「入って来るがいい」



御簾を押し上げる。


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