【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく


「分かった!分かったから真面目な顔でこっち見んな!」


「はっ、貴様、この俺の潔さに怖じ気づいたか」


「何だよその自信は!…あーもういい。水無月といると調子狂う」


ニヤリと腹の立つ笑顔でこちらを見る水無月から目を逸らし、結は唇を尖らせた。


「ならばもっと狂わせてやろうか。貴様のその仮面が剥がれるまでな」
 

水無月から発せられた言葉に、竹刀を握っていた手に固く力が入るのが分かった。


「わざと分かりやすい態度をとっているのだろう。それで?俺と露李といたら調子が狂うのだな?」


「何で、そこで露李が入ってくるんだよ」


「ほう、違うのか?」


意地の悪い笑顔に嫌そうな顔をする結。

相手は飄々としているのだから、尚更だ。

やがて結は小さく息を吐き、諦めたように腕をダランとさげた。


「…別に、全部が嘘だってわけじゃねー」 


水無月は一瞬意外そうに結を見たが、またゆるりと口角を上げた。


「分かっている。…俺が言いたいのは、もう少し弱みを見せてやってもいいだろう、ということだ」


「俺は、俺のことで皆に迷惑かけたくねーんだよ」


ポーカーフェイスではない。

楽しいときは笑うし、怒るときは怒る。


「本当に重要なことは言わず、貴様は笑っている。だからこそ、最初に会ったときから一番得体が知れなかった」

「お前の得体の知れなさには負けるぞ」


そう言いつつも、結の声にはいつもの覇気がなかった。


「お前も露李も何なんだ…」


死を誰よりも恐れてきた。

仲間の顔を見られなくなることが。


だから、最初は。


自分を感情的にさせる存在が許せなかった。


それなのに、今はそれが何よりも大切で。

死ぬ覚悟もできないくらい、一緒にいたくなった。


満足そうな様子で水無月は竹刀を振る。


「で、話が逸れたが。露李は大丈夫だろうか」


「ん…おわ!?」


何かしらを考えていた結が声を上げた。

水無月が表情を小揺るぎもさせずに殺気を飛ばしたのだ。


「お前~っ、唐突に殺気飛ばすんじゃねーぞ!」


ピリピリと痺れる指先を揉みながら叫ぶ。


「聞け。露李は大丈夫なのだろうか」


はぁ?と言いつつ話題が話題なので真面目な顔へ戻る結は律儀である。


「大丈夫、とは言えねーだろうな。けど…あいつが助けに行こうとか言い出さないのは、その危険性と無謀さが全部分かってるからだろ。言ったら俺らが困ると思ってるみてーだから」


「困るのか?」


「困りゃしねーよ。誰だって助けたいと思うだろうが」


「ならば、俺ができるのは普段通りにすることか?」


またブンッと竹刀を振る。


「そうだなー。…なあ水無月、頼みがある」


ふと手を止め、真っ直ぐな翡翠が水無月を見つめた。









  


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