【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく

は、と意図せず声を漏らす。

楽しげに笑う有明に何故か背筋が寒くなって、いつの間にか彼女の次に発する言葉を待っていた。

まるで裁判所で重いと分かりきっている刑に、せめてもの慈悲を願うように。


「どうだ、朱雀家の頭領。そろそろ自分でもおかしいと思っていたのではないか?」


露李がくるりと疾風を振り向く。

不安そうな瞳──しかし、真っ直ぐに見られなかった。


疾風が目を逸らした、そのことが露李をさらなる不安に陥れる。


「さっきから言葉を発していないが。─ここに来るまでの道中、場に合わない嫉妬や羨み、迷いを覚えたのではないか?」


ぐっと握った手が痛い。

疾風には少なからず心当たりがあった。


水無月が露李に手を差し伸べたとき、露李が笑ったとき、その前にも。

戦いのときだって、秀水を前に弱さがありありと出ていた。

守るために何かを犠牲にすることは、いつも覚悟の上だった。

動揺するが、油断したりはしない──それが自分ではなかったか。

張りつめた空気の中で、どこかその場に不似合いな気持ちが渦巻いていた。


「疾風…」


「俺、は…」


「やはりもうそろそろだったか。お前はもう少し張り合いのある奴だと良いがな」


「何をしたの!?」


「ババア、今度ばかりはただじゃおかない」


そう言ったとき、前触れも無く、疾風が頭を押さえて呻いた。

疾風っ、と露李が駆け寄る。


「やめろ、露李、寄るな…!」


「何でっ」


「嫉妬で、頭が狂いそうになる…!」


ぐらりと揺れ、滲む視界。

露李を一歩下がった位置で守るように立つ水無月、慈しむような視線で露李を見る水無月、それに応える彼女の笑顔。


駄目だ、これは“俺の思考”じゃない。

囚われるな。

やめろ。やめてくれ。


よほど苦しんでいるように見えたのか、物怖じせず露李が近づいてくる。

傍らにしゃがみ、肩に手をかけて。

栗色の髪からふわりと甘い香りが鼻をくすぐって─。


「露、李」


「どうしたの疾風、しっかりして!」


「駄目、だ。このままじゃ、お前を──」



傷つける。



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